浏览本页面需要启用JavaScript。
首页  >  可米访谈室 日语版  >  正文
アニメ業界の詩人 浅香守生監督インタビュー
2015-05-10 19:27:02    作者:COMIDAY

企画/多魔  聞き手/土谷三奈  写真/bzd  編集/幕夏 

当ページに掲載される全ての情報は(テキスト、画像など全ての著作物)以下の権利者が著作権を保有しています。
(c)浅香守生・株式会社マッドハウス
無断で複写・複製・転載・配布など、一切お断りします。


浅香守生
1967年兵庫県生まれ。専門学校を卒業後、マッドハウスに入社。制作部から演出助手を経て、テレビシリーズの『YAWARA!』で演出デビュー。以降、マッドハウス生え抜きの演出家として、多くの作品を手掛ける。

代表作品
『カードキャプターさくら』
『POPS』
『人魚の傷』
『ちょびっツ』
『GUNSLINGER GIRL』





序言 アニメ業界の詩人
「カードキャプターさくら」の監督として世界に知られていて、
さくらという少女の感情を画面に溶け込むような、魅力的な演出を見せてもらいました。
そのあと「ちょびっツ」「GUNSLINGER GIRL」「NANA」と次々と大ヒットして、
「成功」の真っ只中っていうときに、
さらに「魍魎の匣」「青い文学シリーズ 人間失格」で名演出連発。
近作として「ちはやふる」は、少女漫画原作ながら男性も魅了される作品となった。
常に最前線に立っている、アニメ業界の詩人、
浅香守生さんが語るアニメについての物語というのは…




土谷三奈(以下、土谷):浅香さんが始めてマッドハウス作品に携わったのは多分「火の鳥 ヤマト編」だと思うんですけど。

浅香守生(以下、浅香):そうです。

土谷:その頃の話から聞けたらありがたいです。

浅香:懐かしいっすね(笑)。

土谷:その頃は、平田監督作品と山田監督作品、そして川尻監督の作品の三作品に助監督という形で参加されています。実際はどう携わってらっしゃったんですか?

浅香:そうですね。マッドハウスに入社して一年目の作品が「火の鳥 ヤマト編」で、その時は助監督という表記になりますけど、もうほとんど小間使いみたいな感じですね。

土谷:今の制作進行みたいな…

浅香:はい、そうです。先輩の助監督さんのさらに助手をやってました。制作の届け物とか。あと当時は主にラシャ紙を切って透過光マスクを作っていたんですが、「ヤマト編」の透過光マスクはほとんど僕が切っています。

土谷:あ、そうなんですね。

浅香:はい。よっぽど細かいやつは、リスマスクというのを作るんですけど。

土谷:平田監督とも一緒に仕事をされて、その後何か影響を受けたことはありますか?

浅香:新人の助監督にとって平田さんは、もう雲の上の方でした。その作品に関わる最後のところの粘りが強くて、普段とても柔らかい人なのに、最後の最後ですごい強烈な直しを出されたりする。作品にすごいこだわりがあって、演出は最後まであがくものだと平田さんを見て学びました。

土谷:三人の監督のお仕事の中だと、平田さんのタッチが一番浅香さんが似ている感じがするんですけど。

浅香:はい。この「火の鳥 ヤマト編」の時だけではなくて、それ以降も平田さんの作品は何度も参加させてもらってるんで、より強く影響が出てるかもしれないです。平田さんは大ベテランで大監督さんなのですが、すごい失礼な言い方なんですけど、感覚がとても若いんです。実験的なフィルムも作られますし、デザイン的に処理したりとか、セルアニメに拘り過ぎないでいろんな素材を持ってきたりして作品を押し上げてくというところはものすごく新鮮です。おそらくずっとあの感覚には追いつけないと思っている監督さんの1人で、一番衝撃を受けた人だと思います。

土谷:その後浅香さんは「YAWARA!」で演出デビューしています。当時の「YAWARA!」への印象だとか、思い出っていうもので何かあれば教えていただけませんか?

浅香:はい。質問状の文章で、すごく細かいところを書いてくださってますけど、当時の僕を今の俺から見ると、っていうか「YAWARA!」はほとんど忘れていたので、久しぶりに自分の話数をちょっと観たんですけど、恥ずかしくてしょうがなかったです。

土谷:ご覧になりましたか、テレシコワとか。

浅香:あ、そうですね。テレシコワ戦も観ましたが、最初の質問に書かれていた「40話」について、あれは僕が「YAWARA!」ではじめてコンテ演出した回でした。当時の僕はまだ演助(演出助手)の考え方で絵コンテを切ったり演出してたので、トータルで作品を面白くまとめるという目線で見えてなかったんですね。なので処理的なことでは演助の延長線上として、こうしたら面白いカットが作れるとか、面白い表現ができるんじゃないかっていうことを考えていて、カット単体としての面白さを追求することしかやってなかったんですよね。

土谷:面白いという気持ちが大きかったんですね。

浅香:そうですね。多分、ワンカット単位での処理に拘りすぎてた時期だったと思います。なので、作品全体として観ると、「もう観てられない」という。

土谷:私は当時小学校二年生ぐらいで、「YAWARA!」をテレビで観てました。当時の「YAWARA!」のイメージって面白いけど、普通の日常アニメっぽくないという印象がありました。柔道シーンの切れとかが子供心にアクションアニメっぽいなと思いました。当時制作中はスポーツシーンは柔道の技をアクションっぽく見せる意識はあったのでしょうか?

浅香:多分あったと思います。初期から順に「YAWARA!」を観ていくと、後半になるに従って柔道がリアルになっていくんですよね。最初の頃は柔道場のシーンでも、場外の線まで何十メートルあるんだってぐらい、ずっと畳をただ走っていてたりするんですけど。作品も後半になってくると足技や組み手争いとかもちゃんとやってたりする。スポーツもののアニメを意識というか、柔道をちゃんと見せたいという気持ちがスタッフの中にあり、それが回を重ねるうちに強くなってると思います。とは言っても、原作者の浦沢さんもおっしゃっていましたが「YAWARA!」はスポーツマンガではなくてあくまで「恋愛もの」です。最終的にはそこがやっぱり強くなっていると思います。





土谷:その後、「D・N・A²」のオープンニングアニメーションや、後に「CLAMP IN WONDERLAND」OVAを制作されています。ミュージックビデオを作る時に意識されていることはありますか?

浅香:「D・N・A²」のオープンニングアニメーションは、「YAWARA!」が終わってからテレビシリーズはしばらくなかったので、細かい仕事を色々やった中のひとつだったと思います。、オープンニングは作品の顔になるもので、その作品を観る前に見るものとして、その作品の世界に入ってもらうという目的が一番強いと思うんですよ。「D・N・A²」でいえばキャラクターの魅力ですね。一人の中に二つのキャラクターが存在するっていうジキルとハイド的なのが「D・N・A²」の軸だったと思ったので、そういうところを強く印象付けるとかですね。あと当然ですけど、音楽に乗ったところの気持ち良さは最低限がなければいけないと思うんです。最近やった「ダイヤのA」だと、テンションを一気に上げて、見てる人の血圧が30ぐらい一気に上がるぐらいの感覚です。オープンニングを観終わった時に作品を見る状態ができていて、本編に入っていくというのがもくろみです。監督の増原くんともそういう話をして作っています。

土谷:短いカットいっぱい差し込むみたいな…

浅香:「ダイヤのA」は特にそうですね。それも動いてるカットばかりで構成したんで、結構熱く出来たと思います。

土谷:「幽幻怪社」のお話ですけど、確か2話と4話は浅香監督がやってらっしゃったんですね。4話の最後の戦闘シーンのカメラワークがうつのみやさんのために作ったと思えるぐらいのカットなんですが…

浅香:すごく良く観てますね(笑)。確かにうつのみやさんが原画担当だということは意識して、絵コンテを描いていました。うつのみやさんがやってくださることを前提にしたカットが1個あるんですよ。時代劇のように剣劇をやるというカットですね。

土谷:屋根の上のカット?

浅香:そうです。屋根の上の全身に入るショットで主人公の綾香を中心にして、周りを七〜八人の敵が囲んでの剣劇アクションのカットです。それも尺がそこそこあって、ずーっと動いてます。実写の時代劇ではよくあるカットですが、あれをアニメでやっちゃったのです。「アクションの内容はかっこよく気持ちよくしてください」ということで、ほぼうつのみやさんにお任せして作ったカットです。気持ちよかったです。

土谷:浅香さんは二つのキャラクターが幕の中にいて戦うアクションシーンをあんまりやらない傾向があるのでしょうか?

浅香:傾向があるというか、基本的に見込みがないとやらないです。特にアニメではそう簡単にできないです。

土谷:作画とか予算とかの問題ですね。

浅香:そうですね。できるアニメーターと時間、ひいては予算ですけどね。出来る人がいるか、出来る時間があるか、やって意味があるかってのもありますけど。

土谷:この回は原画にうつのみやさんがいたので…

浅香:そうです。他にも巧いアニメーターがたくさん参加していました。

土谷:ほぼ同じぐらいの時期に「アンネの日記」をやってらっしゃって、テロップを見ると絵コンテを平田さんたちと一緒にやってらっしゃいます。当時は実際にどんなことをやってましたか?

浅香:監督さんとぽんさん(平田さん)と、僕と、あともう一人。バンバン(佐藤雄三)さんか兼森(義則)さんかな。

土谷:クレジットでは、平田敏夫さん、りんたろうさん、浅香さんの3人が絵コンテとなっています。作画監督は兼森さんです。

浅香:そうでした。主に三人で絵コンテを描いていますね。パート分けして絵コンテを描いたんです。僕は真ん中だったと思いますけど。りんさんは戦争のちょっと古いフィルム的なスペシャルパート的なところを絵コンテと演出まで込みで担当されています。僕の仕事は中盤の絵コンテと、あとりんさんのパートの「撮出し」、アナログでしたのでそれの手伝いはちょっとやってます。

土谷:中盤というとどのあたりですか?

浅香:隠れ家に入ってきて、ノルマンディ上陸のニュースが流れるまであたりかな。

土谷:ラジオが元通りに戻って…

浅香:…だったような、もうぜんぜん忘れています(笑)。テレビ一本分ぐらいの分量だったような気がするんで、もうちょっとかな。

土谷:「アンネの日記」は、「魍魎の匣」でもありますけど、ずっと室内ですね。隠れ家の中にいるシーンが多くて、色合いもやっぱりわりとシックというか、純文学作品のような部分がありましたが、やはり「文芸映画」という部分で、意識されていた部分はありますか?

浅香:アンネに関してはジャンル的なものではなくて、押し込まれた感じ、すごく息苦しい感じとして意識してやってたんだと思います。色もそうですし、絵コンテでいうとレイアウトもです。アニメって人が描くものなんで、自由にカメラ位置が壁突き抜けたりできるんです。壁がある、でも壁の制限なくしてもっとガンと引いちゃって、室内がやたら広く見えるっていうことをやりがちなんですが、それを一切やりたくないというのが「アンネの日記」だったんですよ。なので狭い部屋は狭いなりに壁をカメラ突き抜けたりしないで、結構な人数が室内にいるんですけど、部屋の中に全員を納めるときは広角のレンズを使ったりとか、何かをナメて狭く見せるとか、入らなければそれは諦めて一部だけで撮ったりとか意識して、なるべく窮屈な感じが出るように、室内だけで嘘をつかないカメラアングルでしようと思ったのが「アンネの日記」です。「魍魎の匣」はまた別の観点から室内劇を作ってるんです。

土谷:空間圧縮みたいなところは浅香さん自身が決めたのですか、それとも監督や平田さん、りんさんと一緒に…?

浅香:コンテマン全員一緒に会って打ち合わせはしてないんですが、永丘監督の意図としてあったと思います。あと原作も読んで、そういう印象受けたんでそうしています。

土谷:この頃に「幽幻怪社」「D・N・A²」「アンネの日記」などを二〜三年間でやっていますね。本当にぜんぜん毛色が違い、一本はテンポ良いギャグで、もう一本は日常芝居よりリアルな作品となりましたが、ご自身の中で当時どの作品にハマったとか、この作品から得た経験は思い出に残っている、っていうものがあれば教えていただけますか?

浅香:まず「D・N・A²」オープンニングは、オープンニングを手がけることがはじめてだったんで、一度描いたものをりんさんに添削していただいたり、作監の高橋久美子さんにも少しコンテアイデアを描いてもらったりして、それらを僕がミックスするという形で出来上がっています。ちゃんと自分で作った感は少ないですが、かなり勉強になりました。3作品とも世界観がはっきりしていたので楽しかったです。自分としては世界観が独特だったりキャラクターが際立っている方が、楽ではないですけど考えやすいですね。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


土谷:「カードキャプターさくら」は中国では大人気な作品で、今の若い世代でもファンが多く存在します。1話中盤のさくらが書庫でクロウカードの本を見つけるシーンですが、カメラの位置変化は面白くて、タッチアングルを使ってないのではないかと思います。緊張する雰囲気が出てるそのシーンについて少しお話していただけますか。

浅香:設定的に工夫したところとして、外見はすごく平和そうな、のほほんとした一軒屋なんですけどお父さんの仕事がら地下室があって、そこの扉を開けると異世界が広がってるみたいな表裏みたいな作りにしました。日本人だけじゃないと思うんですけど、人間って、視界の外、たとえば陰影があって奥が見えないとか、曲がり角の向こうに何かあるのかわからないっていうのに、すごく恐怖を覚える動物だと思うんですよ。なのでその書庫の中の本棚の配置で、Uの字に曲がった道を作って、陰影があって、本の隙間からちょっと奥が見えるんだけど何かあるかよくわからない、という空間にしました。だからカメラアングルを奇抜なものにしなくても、陰影がある設定を作り上げていくことによって出来た緊張感だと思っています。個人的に住宅の見取り図とか見るのが好きで、地下室や屋根裏部屋がある家というのが好きってのもありますが。

土谷:「カードキャプターさくら」のオープンニングも浅香さんがやっていらっしゃったんですか?

浅香:はい、やってます。

土谷:「D・N・A²」からの二回目になるんですね。

浅香:そうだと思います。「さくら」は「かわいいキャラクターの魅力が最大限出れば良い」という考えから作った作品です。オープンニングの曲もすごく良くできていて、キャッチーで、そのイメージのままに絵を填めていた感じですね。

土谷:その前に一度CLAMPさんと「CLAMP IN WONDERLAND」でお仕事をされていますね。

浅香:「CLAMP IN WONDERLAND」の時はキャラクター総登場みたいなノリだったんで、ダンボール箱で届いたCLAMPさんのマンガをひたすら読んだ記憶があります。そこでCLAMPの世界にどっぷりハマりました。

土谷:やっぱりそれはその後の「ちょびっツ」の時にも繋がって…

浅香:そうですね。完全に別作品で、対象年齢も違いますけど、CLAMP作品で統一して言えるのはまずキャラクターの魅力が前面に出ているところでしょうか。

土谷:少しお話を進めて2000年代に入ってからですが、「Gunslinger Girl」をやってらっしゃいます。結構重たいお話で、1話はガンアクションがまた激しくて、テロリストのところに乗り込んで、主人公のヘンリエッタがいきなり銃を撃ちまくるシーンがあるんですが、やっぱりリアルさとかを強調する構図が多かったですけど、マフィア映画っぽくというかガンアクションをリアルにするみたいなところは意識されていたのでしょうか?

浅香:「Gunslinger Girl」はまず原作者の相田さんの意向として「銃とその扱い方をなるべくリアルにしたい」ということがあって、意図してやっていました。その辺は原作の大きな魅力でしたので、アニメとしてもまず押さえていかなければいけなかったところです。1、2話でそこをガッシリやって、視聴者の心を掴むというのが、見せ場のひとつでもあったと思います。

土谷:あそこの室内での銃撃シーンもやっぱり空間を圧縮するみたいな見せ方でしょうか?

浅香:いや、あそこは平たく、結構普通に撮ってますよ。カメラ自体はそんなに動いてなくて、ただアクションとか銃をなるべくリアルにしようっていうところです。あとは、なるべく普通なアングルで撮ったのは、小さい女の子に殺人の仕事をさせるという設定が、まず現実ではありえないことだったんで、なるべくそれ以外のこと、イタリアの風景とか人物の所作とかはちゃんと設置して作らなければいけないと思ってたからです。マンガやアニメとしては当然なんですけど。なので本当に普通に撮っていたんです。アングルは普通なんですが、銃の音をごまかすために組織がわざと近所で道路工事をして大きな音を立てているカットを見せたりとか。イタリアで本当に隠密行動して見えるっていうところでリアリティを出さなきゃいけないと思ったんですよ。

土谷:少女がそういうことをしちゃう異様さが際立つような…

浅香:わざとです。

土谷:浅香さんの演出の特徴みたいなところで、エフェクト使われたり、さくらもそうだったんですけど、水紋があったり、そういう演出の印象があります。それらを使うようになったきっかけとかあるのでしょうか?

浅香: そうですね。さくらは魔法少女ものだからじゃないですかね、多分。あと桜はやたら舞ってますね。でもそれってマッドハウスのお家芸のような気がしますね、りんさんの作品も、平田さんも、川尻さんも、マッドハウスの監督さんたちはよく桜を使ってたので、その影響かもしれないですよね。

土谷:マッドハウスの作品の一話目はなるべく桜を舞わせるみたいな印象が確かにありますよね。

浅香:ありますね(笑)。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


土谷:「魍魎の匣」と言えば「6話の演出がすごかったね」っていうお話が持ってくることが多くて、一歩も京極堂の中から出ない中で、様々な演出方法で展開していきます。この時にすごく演出上重要視していた部分を教えていただけますでしょうか?

浅香:6話のコンテは大変でした、もう頭フル回転して作ったもので。演出、作画もすごく意図を汲んでくださってよく出来てたと思うんですが。絵コンテ的にはまず「魍魎の匣」の「匣」というキーワードです。作品の中で、「匣」をモチーフにしていろんなものが出てくるんですが、6話の中においても、京極堂のいる部屋の中がまずひとつの「匣」なんです。その「匣」を京極堂が支配していて、その京極堂の前に影響される鳥口くん、横にいる煩ってる関口には影が落ちているように配置し、次第に鳥口くんがその「匣」の中で京極堂に支配されていくっていうのが全体の流れなんですよ。部屋の中には脳みその情報のように本がたくさん詰っていて、京極堂の頭の中にいるような感じがする。あとは羊羹ですね。

土谷:おいしいそうな羊羹(笑)。

浅香:そう、おいしそうでした。京極夏彦さんの小説は個人的にも好きで何冊か読んでるんですけど、必ず「なくてもいい」、って言うとすごく失礼なんですけど、そういう蘊蓄のシーンがあるんですね。それは作品の大きな特徴で、僕がもしコンテをやるんだったら、そういう話数を描いてみたいなとずっと思ってたんです。アニメの制約の中でオミットされるかと思っていたんですが、見事に有って。見事にまわって来ました。 で、やるからには「なくてもいいが、ないと魍魎ではない」と思わせたかったんです。メインの話は鳥口くんが取材に行って、「匣」の中にツボが入ってて、ツボの中に魍魎で書かれた紙があったっていうところなんですけど、そこに至るまでに京極堂の薀蓄がどのぐらい際立って、ちゃんとメインの話に絡んでるかっていうのを分からせないといけないんで。そのためにどうしようかってずっと悩んで、結局お茶の小物に見立てて分類して見えるような絵を作れば面白いんじゃないかという所での「羊羹」です。理解した鳥口の芝居にも羊羹を絡めています。

土谷:お茶請けの羊羹と、湯飲み、茶托、爪楊枝。あれは浅香さんの案だったんでしょうか?

浅香:そうですね。あれはシナリオにも小説にもないです。ちょうど分類分けの話だったので、四つ小物を整えてみました。

土谷:そのあと11話も浅香さんがコンテをやってらっしゃるんですけど、同じように京極堂の部屋の中の話数ですね。その後移動しますが。京極堂の部屋のシーンは、キャラクターが部屋と縁側の線引きのところに跨ってることも意識されてるのでしょうか?

浅香:そうですね。室内に関口たちがいるのは6話と同じで、11話は縁側に榎木津がいて話が進んでいきます。猫を一緒に描いたのは榎木津がちょっとフリーな位置にいる不思議な能力を持つキャラクターなので、そのイメージでくっ付けました。

土谷:部屋からもちょっと彼だけ縁側へはみ出していて…

浅香:出ています。あとは、「魍魎」という語意が光と影の間のちょっと溶けてる「朦朧」とした状態のところという意味もあるらしくて、縁側と室内で境界線があるような演出になると面白いかと思ってそうしています。

土谷:11話では、京極堂のシーンとは別に、木場が女性を訪ね、女性と会話するシーンがあります。その時、庭がフカンで出てきて、庭の石畳が二つに分岐してるシーンがあったんですけど、あれは浅香さんが何か意味を込めて作ったのでしょうか?

浅香:一応意味を込めてますね。木場の存在と、あと木場が思いを寄せる女性が本当に思いを寄せてる人っていう2つの道。作中でちょっとミスリードさせて作ってるところがあるんですが、その女性にも実は二つの選択肢があって、木場も彼女の父親を殺す・殺さないという二つの選択肢の狭間にいたみたいなシーンだったんで、なんか二つの道があるというのをなんとなく示唆できればいいなと思って作ったカットですね。

土谷:あと「魍魎の匣」というと風鈴が良く出てきたんですけど、お話が切り替えの合図で風鈴の音が鳴って、シーンが変わったりとかカットが変わったりとか。この風鈴を使用する案も浅香さんの中にあったんでしょうか?

浅香:「魍魎の匣」の風鈴に関しては、そんなに気にしていなかったですね。鳥口くんの足がシビれたところや、魍魎っていう紙が出てきたところではちょっとした音のアクセントとして使ってます。けれどあんまり意味は持たしてないですね。

土谷:「人間失格」でより存在感が出てきたのでしょうか?

浅香:そうですね。あっちはちょっと圧迫感として、なんか追い込んでいくものとして使ってます。

土谷:「人間失格」のDVDパッケージに浅香さんのインタビューが載ってたんですけど、そこで風鈴の演出にふれていました。女性との夜のシーンでの風鈴の音は最後にものすごくうるさく、うるさいぐらい鳴らして欲しいっていう指示を出したとか。

浅香:はい。その風鈴の音がもう「死ね死ね」と言ってくるぐらいの感覚が…

土谷:あ、「死ね死ね」っていう脅迫ですか

浅香:そうです。

土谷:「人間失格」の1話では超絶演出を拝見しました。回想に入った手法とタイミングとか、色彩のコントロールとか、象徴的な演出ですとか、まさに絶妙と観客として思ってしまいます。「魍魎の匣」に引き続き「人間失格」での納得具合と言いますか、手応えっていうのはどういう位置づけなんでしょうか?

浅香:超絶かどうかはわかりませんが。確かに「魍魎の匣」でやった表現とか、時間の交錯みたいなところとかは「魍魎の匣」でもちゃんとできたと思うんですけれども、もっとやりたいなと思っていたんで。「人間失格」の企画自体は渡りに船で、思い切りやれてすごく面白かったです。あと演出的には「人間失格」は昭和のはじめの戦争直前の話なので、ともすれば全面セピアな世界になりがちなんですが、基本そんな世界の中に差し色を入れて作ってます。冒頭の街並みで空がド赤だったりとか、口紅を引くところの赤が鮮烈だったりとか、夜なのに真っ白な空間とか、そういう印象的なところでなるべく繋げていこうと思っていました。

土谷:赤色が象徴的に何回も出てきました。ホステスさんの衣装も赤でしたし。印象的な色使いでしたが、他にも、時間の跳躍や、死体と目が合うシーンやセックスシーンもはっとさせられるところが多く、リアルなのに急にカオスに足を踏み入れたような演出が際立っている感じがありました。特にご自身の中で「ここは気持ちよくできた」っていうところはありますか?

浅香:「人間失格」の話は全体通して4話あるんですけど、その中で割愛しなきゃいけない部分がかなりあって。もう描きたいものが多かったんで、なるべく無駄なところは省くっていう現実なところがあったのですが、ただそれでリズムにアクセントがついたんじゃないかとも思っています。シーンの切り替えに関しては、なるべく無駄な時間を要せず、時間の流れをカメラを固定して飛ばしたり。例えばお父さんに何が欲しいって言われて、獅子の面を言えずにいた葉蔵が蚊帳の中で悩んでいたカットでは、、夜から真昼に繋がったのを同じカット中で、時間だけフッとOLしたらもう夜が明けていて獅子の面が目の前にあるとか。あの辺は自分でも面白くできたと思ってます。

土谷:あれは葉蔵は本当に欲しかったんでしょうか。獅子が欲しい自分を演じていたんでしょうか。

浅香:お父さんの頭の中でどういう自分でいればいいのかっていうところが正解だったんです。別に何も欲しくないんですよ。ただ世間にとってどういう自分が正解なのかをずっと考えてるっていうところです。絵コンテワークに関しては、4話が僕的にはすごく好きで、回想が何回か出てくるんですけど、ガラスの窓を通して過去と現在が向き合っていたりとか、美術設定を含めてけっこう工夫できて面白かったんです。

土谷:火鉢のシーンとか。

浅香:そうですね。火鉢の中を覗くと白い灰の上に過去の自分が横たわっていて、火鉢の中が雪景色のシーンにつながってとか。やっててとても面白かったですね。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


 土谷:そういった文学系の作品もやりつつ、「POPS」「NANA」「ちはやふる」、また「カードキャプターさくら」も手がけてらっしゃいます。少女漫画原作のアニメも浅香さんが得意としている印象がありますが、女の子が主人公だったり、若い女性がターゲットの作品を演出されるときに意識していることは何でしょうか?

浅香:少女漫画だから意識することは実はそんなにないです。どの作品も話の流れの為にキャラクターが嘘をつくようなことのないように作ってるだけで、だからあんまり…。「POPS」も「NANA」も「ちはやふる」も全部違う作品なので、それぞれ画面効果も全部違います。統一して少女漫画だからというのは基本あんまりないですね。

土谷:「ちはやふる」と「NANA」では、それぞれどんなところが大変でしたか?それぞれ、百人一首が題材だったり、「NANA」では衣装がビジュアル系だったりと、大変そうでしたが。

浅香:「NANA」に関してはまず楽器ですかね。自分、楽器がまったくできないんで、ちょっと勉強足りなかったなって思いますね。ギターとかベースとか、自分の能力的にも時間的にも難しいことですが、もうちょっとやりたかったです。ドラマとしては面白くできたと思っています。「ちはやふる」に関しては、かるたをかなり勉強してのぞめたと思います。動きや音に関しても、かなりリアルなところまでできたと思います。「ちはやふる」ではアニメをやったあとにかるた人口が増えるっていうのが目標だったんです。実際に原作が出た時もかなり増えたそうですが、アニメでも多少増やせたので、その辺の目標も叶ったと思ってます。

土谷:私は高校生のときに競技かるたをやっていました。当時は本当にマイナーだったんですが、最近では小学生のかるた人口が増えたという嬉しい話を聞きました。

浅香:本当良かったです。

土谷:(ちはやふる)2があったら浅香さんがやるのでしょうか?

浅香:えっと、次は3ですね(笑)。やりたいですね。アニメ業界の中では、かるたのルールや「ちはやふる」の読み込みなど、多分僕が一番だと思ってるので(笑)やりたいですね。また最近の原作も面白いですよね。原田先生がものすごくがんばったりとか、名人戦とか熱いです。

土谷:ちょっと群像劇みたいな印象があります。主人公達以外にも新しいキャラが登場し、そのキャラが努力してそれぞれの葛藤を乗り越えていく。それが丁寧に描かれている作品っていう印象があります。

浅香:特に初期の方はちはやのキャラクターをドンと出して、そのあと部活になった時に、それぞれに悩みや上昇志向がある人間が集まってくるっていう。それぞれの部員で1話づつ作れたのは良かったなと思います。

土谷:今後の浅香さんの担当作品の噂を聞いています。少女漫画をまたやるお話があると聞きましたが、タイトルを教えてもらってもいいでしょうか?

浅香:はい。今やっているのが今年の春から放送される「俺物語!!」という少女漫画です。「別冊マーガレット」で現在も連載中の漫画で、それをアニメ化します。今作ってる最中ですね。「俺物語!!」って少女漫画としては多分はじめて、ごつい男が主人公です。少女漫画に有るまじき、というか今までなかったものなので、少女漫画だけど全然少女漫画じゃない(笑)、でも少女漫画っぽっくないけどすごく少女漫画してるっていうすごく不思議なマンガ、すごく面白いです。

土谷:ごつい男の人が恋愛をして?

浅香:身長2メートルで、体重100キロオーバーで、ラブラブです。

土谷:あ、ラブラブなんですね(笑)。

浅香:恋愛とか友情とか、観てると熱かったり、すごくほっこりしたり、とても感情が揺さぶられる作品で面白いです。ぜひ観てください!!